2010年9月28日火曜日

F2 アルカンヘルとホセ・アントニオ・ロドリゲス

©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

20時半マエストランサ劇場。

ミゲル・ポベーダとならび、フラメンコの今を象徴するカンタオール、アルカンヘル。
彼がソリストとして活動しているホセ・アントニオ・ロドリゲスと組んだF2
 7月、コルドバのギターフェスティバルで初演した作品だが
劇場で配布されたプログラムにはアルティスタの名前はあっても
曲順とかの説明はない。

シギリージャに始まり、アンコールの「マンハッタン・デ・ラ・フロンテーラ」に至るまで
全体としてホセ・アントニオ・ロドリゲスのリサイタルに
ゲストでアルカンヘルとアントニオ・カナーレスが参加した、
という感じだったのは残念。
F2 というタイトルからして、五分にわたりあい、
お互いの中からふだんはみせないものをひきだしてくれると期待しすぎたせい?
基本的にソリストのホセ・アントニオが伴奏で
おさえた演奏をきかせるかというとそんなことはなく弾きまくり、
アルカンヘルはコーラス隊のようにつかわれている感じ。

さらには音響の問題なのだろうが、
アルカンヘルの叙情的で美しい声はギターの響きにかきけされ
途中で「ギターをおさえて、歌がきこえないじゃない」という
観客の声に拍手がおきる有様。

©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

ひさびさにビエナル登場のカナーレスは一段と大きくなっていた。
ところどころ、ん?というような、すごさはあるのだけど
やっぱよくわからない組み合わせ。
個人的には、アルカンヘルの歌をもっとききたかったし
ホセ・アントニオのいつもと違う面もみたかったな、という感じでございます。


なお、9月29日はスペイン全国ゼネストでビエナルも公演はありません。

パストーラ・ガルバン「パストーラ」

セビージャの主婦が家で掃除したりするような格好のパストーラが
スリッパを脱ぎ捨てて踊りまくるトリアーナの粋なタンゴにはじまり

©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

黒い衣装での深い深い
魂をえぐりとるようなシギリージャス

©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

白いバタ・デ・コーラにマントンでの
華やかなアレグリアス

 ©Luis Castilla/Bienal de Flamenco
 ©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

そして
ボボーテとのタンゴ!
©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

昨年のヘレスで初演した、
今、最もフラメンカなバイラオーラの作品が
さらにパワーアップ。
ラモン・アマドールのギターの深い音、
ダビ・ラゴスとホセ・バレンシアの熱唱に支えられ、
多くの批評家たちが今年のビエナルのベスト!と断言する、
素晴らしい舞台をつくりあげたのでした。


アラメーダ劇場では
サンティアゴ・ララのリサイタル。
ゲストはメルセデス・ルイス。



2010年9月27日月曜日

エストレージャ・モレンテ

15分以上遅れて開演した「グラナダのエストレージャ・モレンテ」
市民戦争前のビデオが流れ、父エンリケの語りが、
ロルカやファリャが尽力した1922年のカンテホンドのコンクールの世界へと誘う。

©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

スクリーンがきえると舞台の上にはグラナダの洞窟フラメンコのアルティスタたち。
グラナダを代表する曲、タンゴを歌い踊る。
マンドリンとリュートのグループの演奏でエストレージャが登場。
アルバム「ムヘーレス」にも収録されているサンブラを歌う。。。
古き良き時代への郷愁


©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

フラスキート・ジェルバブエナのファンダンゴ
再びタンゴで全員の総踊りでグラナダご一行の部から
エストレージャのリサイタル・モードとなり
アレグリアス
マラゲーニャ
グラナイーナ
グラナダを歌ったスペイン歌謡風ブレリア
またもやブレリア
そしてソレアはグラナダの踊り手、フアン・アンドレス・マジャを招いて。

踊りとからみつつ歌ったエストレージャは途中で消えて
ハレオ・エストレメーニョに。
フアン・アンドレスのバイレは
叔父マリオ・マジャやアントニオ・カナーレスの影響を感じさせる。

ファリャの「三角帽子」で踊る赤いバタ・デ・コーラのエストレージャ。
そこから全員のブレリアへ。

と書くとあっという間のようだが、2時間超。
初日ミゲル・ポベーダの3時間にはおよばないものの
今年のビエナルは長時間の作品が多いのには閉口。

エストレージャは天性のスター性をそなえ
美貌と美声、才能に恵まれたたぐいまれなアルティスタ。
だが、作品としてはまだまだ整理していく必要があろう。

しかし踊り手でもない彼女がなぜあんなにたくさん踊るのだろう。。。
こないだのギターを弾くファルキートといい
隣の芝生は、か?
ってどちらも真の意味でのアルティスタでフラメンコだから 
何をやっても様になるし、いいんだけどね。


アラメーダ劇場では昨年のラ・ウニオンのコンクールの覇者、
アナ・モラーレスとボルハ・エボラの公演
©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

2010年9月26日日曜日

トマティート「ルス・デ・ギア」とエストレマドゥーラの夜

マエストランサ劇場はトマティート。
©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

ソロのタランタが、ハレオ・エストレメーニョへとつながるオープニング。
ベースとのジャズフュージョン風もしくは映画音楽風のテーマをへてブレリア。
ソレアからはじまるアルゼンチンタンゴ。
パット・メセニー風ブレリア。
フラメンコのタンゴはモレニート・デ・イジョラ、シモン、インゲータら歌い手たちが
カマロンのレトラをうたいつぐ、カマロンへのオマージュ。
 十八番のブレリアは過去のいろんな曲のコラージュ。
トマテのブレリアはやっぱいい。リズムが玉になって迫ってくるような感じ。
最後はホセ・マジャが踊るポプリ。
ソレア・ポル・ブレリアにはじまりタンゴ、ブレリア、シギリージャという詰め合わせ。

©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

アンコールでは息子がギターを弾いてデビュー。
孫も踊った。トマテ家はこうしてアルテをつなげていくのだろう。
なおこの日のプログラムには共演者名も曲名もいっさいなし。
第2ギターのクリスティとか、ベースのマカとか、パーカッションのルキ・ロサーダとか
だいたいわかるけど、トマテのメンバー紹介も拍手でききとれず、パルメーロの名が不明。
うーん。

23時半からはオテル・トリアーナでエストレマドゥーラの夜。
1部はミゲル・デ・テナ、ペドロ・シンタ、ペドロ・ペラルタ、
エステル・メリノ、ラケル・カンテーロと若手たち。
2部のベテラン勢がすごかった。
レメディオス・アマジャの叔父、アレハンドロ・ベガをはじめ
映画「ベンゴ」で鮮烈な印象を残したラ・カイータ、
エル・マダレーナ、エル・ビエヒーノ、パウロ・モリーナという歌い手陣。
そしてバイレのエル・ペレグリーノ!

©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

細身のおじいちゃんなのだが、いやあ、そのテンペラメント!優雅さ。
コンパス感、いいところにすっときめるセンス。
なにをとってもめちゃプーロ。
歌もタンゴ・エストレメーニョにハレオと
エストレマドゥーラ・ホンド・プーロ・イ・ドゥーロ。
思いがけなくめっちゃいいものをみさせてもらいました。

2010年9月25日土曜日

ラ・チョニ「グロリア・デ・ミ・マドレ」

セビージャの公立舞踊学校で学んだアスンシオン・ペレス“ラ・チョニ”
2007年に自分のカンパニーを結成した彼女は前回のビエナルで新人賞を獲得。
今回はカンテ、ギターに俳優というコンパクトな構成で
“全てのアーティストの母に、全ての母に、全てのアーティストに”
捧げた作品で登場。昨日の「アレハンドリア」にひきつづき、
演劇+フラメンコの作品である。
劇場の舞台に出た踊り手とその母の物語は


踊り手エストレージャ(ラ・チョニ)の
母グロリアに扮した俳優(フアンホ・マシアス)のモノローグですすむ。
このモノローグが、アンダルシア弁の、おばさんたちのカリカチュアで
いうことなすこと、、おもしろおかしくいかにもな感じで
客席は爆笑の連続。

その合間にバイレ(あ、反対か?)が
ソンブレロをつかったグアヒーラ、
カスタネットのシギリージャ、
マントンのカーニャ
チンチンをつかったサンブラ
バタ・デ・コーラのアレグリアス。。。

©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

が、まともに踊ったのはグアヒーラだけで
シギリージャでは頭に花を付け忘れた彼女をおいかけ母が舞台にでるわ、
カーニャではマントンを間違えたといっては取りにいくわ
サンブラは歌が「ニーニャ・デ・フエゴ」、フエゴ=火事で
火事だといって母大騒ぎ
アレグリアスでは母に怒り爆発な歌い手(アリシア・アクーニャ)と
踊り手がはりあい、カスタネットたたいてけんか(秀逸)をしたかと思うと
ついにはおかーさんもバタ・デ・コーラで登場とゆう。。。

最後は母に捧げる歌(マヌエル・ロンボ)でおわるが、
基本はお笑いフラメンコ。
演劇系の演出家がついているので、構成、舞台上の動きなどは整理されていて
安心してみていられるし、時代設定(20世紀前半)にあった衣装や振付け、ギターも、
踊り手、歌い手、ギタリストたちの小芝居もわるくない。
バラエティーショー的フラメンコ、これもひとつの道なのかも。


同じ時間ロペ・デ・ベガ劇場では「ムヘレス」

©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

フアナ・ラ・デ・ラ・ピパ、ドローレス・アグヘータ、マカニータが
モライートとディエゴ・アグヘータの伴奏で熱唱。


23時半からはオテル・トリアーナで「クアトロ・アセス・デ・フラメンコ」

©Luis Castilla/Bienal de Flamenco


アウディトリオではライムンド・アマドール+マラ・ロドリゲス

©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

2010年9月24日金曜日

遠き「アレハンドリア、ミラーダ・オビクア」

アレハンドリアとはアレクサンドリアのこと。
アレクサンドロス大王の軌跡を母オリンピアの視点で語るこの作品、
8co80劇団制作。



オリンピアは舞台下手の砦に立つ女優が語り
フアン・ホセ・アマドールがカンテでサポートし
アレクサンドロはフアン・カルロス・レリダ
その幕僚へファイスティオンをマルコ・バルガス
寵愛をうけた宦官バゴアスにマルコス・ヒメネス
妃ロクサネにクロエ・ブルーエ、
と、フラメンコたちが舞踊で物語を描いて行く、というもの。

東洋と西洋の出会いがテーマということで
音楽はフラメンコだけでなく、
サンフォーニャ、イラン起源のサントゥール、 アラブ風のバイオリンなども加わる。

演劇畑の人が脚本を担当し、演出家がついているだけに
しっかりした構成だし、装置や衣装も演劇的。
4人のダンサーは、いずれもフラメンコだけでなく、
コンテポラリー的な振付けもこなせる、しっかりしたテクニックの持ち主だし、
安心してみていられるだけでなく、踊るだけでなく、演じることも見事にこなす。
とくに振付けを担当したフアン・カルロス、
視線や表情で、台詞以上のものを語るのには脱帽。
またクロエも、昔バレエをやっていたこともあってか、動きに無駄がなく素晴らしい。


スタッフ、キャスト、ともにそれぞれの仕事をしっかりやってきた、
練習もつんできた、ことを評価したい。
ほかの、作品をつくっていくフラメンコたちにも見習ってほしい。
だが、感動は感心とは別物だ。



同じ時間、ロペ・デ・ベガ劇場では
フアニート・バルデラマの忘れ形見で歌手のバルデラマが
父をはじめ、チャコン、マルチェーナ、バジェーホなど歴史的カンタオールたちの
レパートリーに挑戦。父と共演したことのあるグイトらがゲスト出演




23時からはアラメーダ劇場でダビ・パロマール。

2010年9月23日木曜日

ドランテス「シン・ムーロ」

ドランテスは不思議な存在だ。
父はギタリスト、ペドロ・ペーニャ、叔父に歌い手レブリハーノ、
祖母も歌い手ペラーテと、レブリーハのヒターノばりばりの家系に生まれ育ちつつ
その音楽はクロスオーバー。ニューエイジなフラメンコとでもいうべき?
で、固定のファンをもちマエストランサ劇場は満員。

©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

コントラバス、パーカッション(従兄弟のテテ・ペーニャ)、
ウエルバの双子のパルメーロメジとともにはじめた最初の曲は
ジャズフラメンコ風のブレリア。
パルマのアクセント、強弱のつけかたなどがよく考えられていて面白い。
それにもましてコントラバス、ゲストアーティストのルノー・ガルシアが秀逸。
やはりゲストのエスペランサ・フェルナンデスが華をそえたグラナイーナでは
坂本龍一的な感じもあり、
父ペドロ・ペーニャ、兄のギターの入るソレア、
再びエスペランサが入るグアヒーラ、
ジャズ風グルーブのタンゴ、
ラファエル・デ・ウトレーラやアルゼンチン人バンドネオン奏者の入るアレグリアス。
そのあとのシギリージャスが私の一番のお気に入り。
パルマが早いテンポのシギリージャをきざみ、
バンドネオンのせいもあってか、ピアソラ風にもきこえる音楽に
父の、プリミティブな味わいのシギリージャのカンテがからむという面白いもの。
それまでのリラックスモードから一気に目が覚めた。
うん、これはもう一度きいてみたい。
最後の全員でのブレリアではそれぞれのソロもあり、
ペレのソレアのカンテも加わり、
2時間以上にわたるリサイタルは終了。

フランス、キューバ(ウッドベース)、アルゼンチン、と
国籍もプログラムに書かれているのは「シン・ムーロ」壁のない、
世界という、リリース予定の新譜のコンセプトゆえか。
ホリゾントにイラストや写真をうつしだすなど、
スペクタクルとしても考えてはいると思うのだが、
同じような感じのフレーズの繰り返しも多く
2時間超はいかにもながい。

なお、予定されていたレブリハーノは親戚の死で、またホセ・メルセは健康上の理由で
出演できなかった。


なお、アラメーダ劇場では23時からアントニオ・カンポスのリサイタル。

©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

2010年9月22日水曜日

ファルキート「ソネリア」

ファルキートは私の大好きなバイラオールの一人。
骨の髄までフラメンコで
伝統への敬意とオリジナリティがともにあり、
観るたびに驚かされ、興奮させられる。
3月にみたヘレス・フェスティバルでの公演があまりによかったので
今回の新作上演も期待していたのだが。
マエストランサ劇場は超満員。



幕があくとそこはバー。
奥にカウンター。
右手に舞台があり、ピアノとベース、パーカッションのトリオと
二人のキューバ風美女が並ぶ。
ヒターノに人気のボレロ歌手、モンチョのボレロではじまった。

キューバに行ったアンダルシアのヒターノたち、という設定で
ボレロが終わると旅行鞄をさげたファルキート御一行が客席を通って舞台にあがる。
キューバ人たちとの会話があって、ー私は前の方だったのできこえたが、客席全体にはきこえないだろう、僕たちの音楽をみせるよ、という展開で、ファルキートのソレアになる。


©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

ソレアはファルーコ家のお家芸。
この日も低く跳躍しながらの回転とか、思わずオレ!のでてしまう瞬間もあったのだが。

4人のバイラオーラによる白い大きなアバニコでのグアヒーラにもからむが

©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

それはやがてルンバ/タンゴからキューバへと流れ
パコ・デ・ルシアのグループのベーシスト、アライン・ペレスが歌うグアンタナメラへ。

かと思うとファルキートがエレアコ、すなわちアンプにつないだアコーステッィクギターを手に、キューバ組のインディア・マルティネスを伴奏。
ギターがうまいことも、作詞作曲もこなすこともしっていましたが。。。
その彼女をスペイン組に紹介し、女たちに冷たくされたところではじまるタラント。
サパテアードでぐいぐいおしていき、歌がはじまると、あれ?
ファルキートはどこ?

女の子、一人ずつと、マントンやバストン、バタ・デ・コーラなどをつかって踊るセビジャーナスには、バタをとびこえるところなど、オレ!もないではなかったのですが、最後は再びアライン・ペレスの歌。。。

いや、このあときっとブレリアのソロとかみせてくれるにちがいない、との願いもむなしく、これでおしまい。
ご挨拶のあとにはじまったフィン・デ・フィエスタでも、願いは叶わず。。。


これまで映画「栄光の婚礼」は別として、
基本的に舞台では、物語もなにもない、素のフラメンコだけをみせてきたファルキートが、
フラメンコプラスαの作品をつくろうとした今回の試み、
残念ながら、彼の踊りを楽しみに観に来た観客にとっては
満足のいくものとはならなかった。
構成、舞台上での人物の動きの整理、照明。。。
すべて不満が残る。演出家など、助言してくれる人が必要だったのだろう。
彼の魅力を十二分に発揮できるように助けてくれる人が。

なんだか肩すかし食らった気分。

彼の踊りがもっと観たかった!
次回はぜひ、またあのすごい踊りでわたしたちを満足させてくれることを祈ってやまない。



2010年9月21日火曜日

パコ・エスコバル

ビエナルは世界最大規模のフラメンコ・フェスティバルである。
がたくさんの公演があるせいか、ときに、とんでもないものをみることになる。
20日のパコ・エスコバルがそうだった。

ロペ・デ・ベガ劇場のアンドレス・マリン公演はヘレスでみていたこともあって
23時開演のこちらへ足を運んだのだったが。。。

絶句。
ぜんぜんギターが弾けてないのだ。
音が出ていない.プルサシオンの問題?
ずっとギターをなでてるだけ、という感じ。
家で練習しているような雰囲気。
この人、本職はセビージャ大学コミュケーション学部スペイン文学の先生。
プロじゃないから、といえばそれまでなのだが、
プロじゃない人がビエナルにでてくるのなら
それなりの実力があるべきではないのか?
これでいいならなんでもありになってしまう。
カンテ、ピアノ、パーカッション、バイオリン、
ビオラ・ダ・ガンバ、バンドネオンというグループだったのだが、
コンサートの主人公が頼りないから、グループでの一体感などもとうていなく、
コンパスもぐちゃぐちゃ。
パルマははずすし、カンテもはずす。
観客は途中で席を外す。。。
2時間にわたるコンサート。

©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

数少ないギターのリサイタルだからと足を運んだ人がいたら
めちゃくちゃ失望するか、
これでだいじょうぶならオレだって、と気持ちが明るくなったか…

フラメンコ・ギターに人材がないわけではまったくなく
ここ数年でCDをリリースした中にも
ミゲル・アンヘル・コルテスやヘスース・トーレス、アントニオ・レイといった
ふだんは伴奏中心だが、しっかりした素晴らしい演奏をきかせてくれる人がたくさんいる。
ビエナルは、その名にふさわしい、質の高いアルティスタを選ぶべきだ。


ロペ・デ・ベガ劇場は前述のアンドレス・マリン。
©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

2010年9月20日月曜日

ロシオ・モリーナ「石が飛ぶとき」

広い広い舞台。
舞台奥には白いスクリーン。
右手前には石。
左奥には石の山。
袖幕も一文字もなく、照明がそのままみえる裸に近い舞台。


黒いセパレーツ水着、もしくは下着姿のロシオは石の上に横になる。
ワンピースのヘマ・カバジェーロとパンツルックのトレメンディータがうたいはじめる。
やがておきあがったロシオはメタルの床でサパテアードをはじめる。
鳥のような腕の動き。
鳥になりたい石? 飛びたい石?

スクリーンに鳥かご。ふくろう。

舞台奥でシャツをはおる。

カンティーニャス、アレグリアス、ミラブラス。
セーターに膝までのレギンスで踊る。
静かな静かなシレンシオ

椅子にこしかけたまま
最初に横たわっていた石の床をたたく音にあわせて踊るロシオ。
怒濤のサパテアード。

©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

スクリーンには女性同士の恋人たち 
それが老婆に 
死んだ雉がつりさげられている

帽子をかぶった男装のトレメンディータがタバコに火をつけうたいはじめる。
ロシオもタバコを口にしたまま踊りはじめる

©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

煙も踊る。

歌い手とパルメーラが輪になってのタンゴ。
ここでのロシオは圧巻!
圧倒的な力をみせつける。

光のカーテンの中
少し裾をひきずったスカートをみにつけたロシオと
トレメンディータのデュオ。
アバニコの音は鳥の羽ばたき?それとも鳴き声?





ロシオ・モリーナの実力に異論を挟む者はないだろう。
だが、この「クアンド・ラス・ピエドラス・ブエラン」は評価がわかれる作品だ。

前作「オロ・ビエホ」でみせたような
フラメンコ・フラメンコな作品を待っていた人は
肩すかしをくらったように思うだろう。
確かにロシオは、その抜群のテクニックで、何を踊ってもすごい。
今回はイスラエルの影響をちょっと感じた。
パソをまねるのではなく、文法をまねる、というか、
ちょっとした静止の感覚とか、細かいところにイスラの影をみる。

音楽も中途半端。
音楽がもっときっちりつくりあげていたらまた他の印象をもてただろう。
フラメンコ? 非フラメンコ? どちらでもかまわない。
よい音楽は舞踊を助ける。
ヘマ・カバジェーロの美声とトレメンディータの甘ったるい歌い方も
ギターソロも、もっといかしきれていたら、と思う。

ミニマリズムの、アンチフラメンコとでもいえそうな
コンセプトの舞台づくりと衣装。
水着風は、先日のルベン・オルモのズボンをはかない足同様、
筋肉の動き、身体のこまかな動きをみせるという意味では興味深いのだが
衣装が踊りの魅力を増すことにはなっていない、と思う。
好みの問題かもしれないが。

セビージャの新聞の舞踊評論家は大絶賛しているが
フラメンコ評論家は否定的な意見だ。

誰をも満足させる作品というのは少ないし、
エバ・ジェルバブエナの「ラ・ボス・デ・シレンシオ」初演を思い出す。
ちょっと前衛的な演劇の演出家とテクニック抜群のバイラオーラという組み合わせで
ただのフラメンコ好きにはわかりにくい舞台づくり。
だが、エバが最後に踊るソレアで、私たちを力ずくで納得させてしまったような
カタルシスを感じることは、少なくとも私にはできなかった。

26歳のバイラオーラ。
これからも変貌していくのだろうが、この作品がその人生にどんな意味をもつのか、が、
わかるのはずっと先のことなのかもしれない。



23時からはアラメーダ劇場でダビ・ラゴスのリサイタル。

©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

若きベテラン。このアフィシオンあふれる歌い手のすごさを感じさせる舞台。

2010年9月19日日曜日

ヘレスからカディス

ロペ・デ・ベガ劇場の幕が開いたらそこはヘレス。
ディエゴ・デル・モラオ、ペペ・デル・モラオ、マヌエル・パリージャ
3人の若者が弾き
ヘスース・メンデス、フアン・デ・ラ・モレーナ、エル・キニ
3人の若者がうたい、
ティア・マフマ、ティア・チューラ、ティア・ジョジャ、ティア・クーラ
4人のおばあさんが踊る。
ゆっくりゆっくりと手を動かす。
めちゃくちゃシンプルで味わい深いのあるブレリア。
年季がはいっている、コンパスを呼吸するブレリア。
それを支える4人のパルマ
ボー、チチャッロ、グレゴリオ、ラファ。
このコンパスだけでもうじゅうぶんに満足!


©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

フェルナンド・デ・ラ・モレーナのトリージャ、
マテオ・ソレアのシギリージャにはペペが伴奏、
エンリケ・ソトのタラントにはマヌエル・パリージャ、
ルイス・エル・サンボのソレア・は机をたたくコンパスで。
音響の問題があったのは残念だったが、
深みのある、みごとなブレリア・ポル・ソレア。
もっともっと、いつまでも聴いていたい気持ちになる、
そんなフラメンコ。
最後は自由闊達なソレアでトルタがしめる。伴奏はディエゴ。

モライートがギターをかまえると客席から「モラオ!」の声
ハレオかと思うと
白いスーツのグリロが客席から舞台に上がりモラオのブレリア、
アルバム「モラオ・モラオ」の「ロンカジサ」を踊り始める。
グリロのサパテアードは音楽!
酔っぱらいのように身体をぐにゃぐにゃとする。倒れそうで倒れない。
コンパスそのもの、ブレリアそのもののようなグリロに
そしてモライートに観客は熱狂した。

©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

最後は再びブレリア。
キニ。フェルナンドはマイクなしだったので聞きづらかったのが残念。
フアン。この人のブレリアは歌詞のグラシアも魅力なのにギターばかり響く音響のせいで
あまりききとれないのは残念。
ヘスースは伯母パケーラのブレリアを
トルタは「コロール・モレーノ」を歌い踊る。
そのかっこよさ。
ルイス・エル・サンボの歌でモライートが踊る。優雅で愛らしく絶品のブレリア。

©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

パケーラの姪、マヌエラの歌は長過ぎたが
最後はおばあさんのひ孫のマヌエルやボーも踊り。。。
ヘレスのブレリアを満喫。

23時からはオテル・トリアーナで「カディス・エテルナ」
一部のリディア・カベージョの踊りは見逃したが
ランカピーノ、フアン・ビジャール、マリアナ・コルネホ、ナノ・デ・ヘレス
ベテラン4人のクアドロ、とくに最後ランカピーノが歌い3人が踊るブレリアが楽しい。

©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

その後再び、ホセ・ルイス・オルティス・ヌエボの「ドス・レトラス」をはしご。
カディス県(ヘレスはカディス県)三昧の一夜でございました。


なおセントラル劇場ではアルフォンソ・ロサとホセ・ロメーロの「グリト」公演が行われた。

©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

2010年9月18日土曜日

ニーニョ・デ・プーラからホセ・ルイス・オルティス・ヌエボ

©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

ビエナル3日目も旧万博会場内にあるセントラル劇場へ。
ギタリスト、ニーニョ・デ・プーラの「フラメンコ・プーラ」
まだ録音していないという新曲中心の1時間半。

ソロのグラナイーナ。最後カホンが登場しファンダンゴのリズムでしめる。
やはりソロでソレア。これも最後カホンでリズムをあげてしめる。
アレグリアスはグループで。
ビセンテ・アミーゴのグループのパチはパーカッションのかたわらボーカルもつとめるが
あまりに高音すぎ、苦しそう。
アグスティン・エンケのカホン、第2ギターだがベースもひくフアン・マリア・レアル、
カンテは去年ラ・ウニオンのコンクールで優勝したチュルンバケ、
パルマはマリア・ホセ・アルバレスとバイラオールのダビ・ペレス。
にぎやかなアレグリアスでもりあがったかと思うと
カンテソロ2曲。
再びソレア、という選曲はどうなんだろう。アバンドラオに続く。
伴奏でも得意のピカードで華をそえるというものの
ギターコンサートに必要だったかは疑問。
チュルンバケ自身もグループでちょこっと歌ったときの方がよかったような。
続くファルーカのファンタジーは踊りがはいる。
ブレリアス。そしてファンダンゴスでおしまい。

ニーニョ・デ・プーラは得意のめちゃ早いピカードをはじめ、
テクニックのあるギタリスト。
でも曲の構成や、メロディなどは好みがわかれるところだろう。


同時刻に開演のロペ・デ・ベガ劇場ではベテラン・カンタオール二人が登場。
ホセ・メネセと
©Luis Castilla/Bienal de Flamenco
アグヘータ
©Luis Castilla/Bienal de Flamenco

メネセが腕をつっているのは数ヶ月前に転んで痛めたせいだとか。


また23時半からは万博会場内のオーディトリオでキコ・ベネノ
©Luis Castilla/Bienal de Flamenco
カタルーニャのルンバの帝王ペレ

©Luis Castilla/Bienal de Flamenco
とチーチョスのコンサートもありました。



でも私は深夜1時からオフ・ビエナル「ポル・ドス・レトラス」を、
トリアーナのサラ・カチョッロで。
初代ビエナル監督で詩人のホセ・ルイス・オルティス・ヌエボが
カディスのカンタオール、ペリコン・デ・カディスの聞き語りを自らまとめた
「ミル・イ・ウナ・イストリアス・デ・ペリコン・デ・カディス(ペリコン千一話)」をもとにペパ・ガンボアの演出でつくりあげた一人舞台。
ペドロ・バラガンのギターをバックにわたしたちを市民戦争前後のカディスに、
フラメンコの世界へつれていく。
スペイン語堪能な人にぜひおすすめ。抱腹絶倒まちがいなし。
今日も深夜1時から公演あります。
あ、セビージャにいない人はぜひを!

2010年9月17日金曜日

トランキーロ・アルボロト

1980年セビージャ生まれのルベン・オルモ。
ハビエル・バロンのカンパニーで初舞台をかざり、
後、スペイン国立バレエで活躍。
2006年には自らの舞踊団をたちあげ、
「ベルモンテ」「ピノキオ」とオリジナルの作品を発表してきた彼が、
セビージャに本拠を移しての初の作品がこの「トランキーロ・アルボロト」。

ズボンをはかず長めのシャツだけで踊る、意表をついたオープニング。
ダンスシューズで踊るそれはバレエ的、コンテンポラリー的。
重心が高く、美しい動きは
スパニッシュ・コンテンポラリーとでもいうべきものだ。

袖幕やホリゾントをとりはらい、舞台裏をみせた中でおこなわれる
レッスン風景が第2景。
ルベンがダンサーたちに指示しながら踊るという構成は
ガデスのカルメンや映画「血の婚礼」のオープニングをおもいおこさせる。
振り自体は、途中でふいにストップするところなど現代的。
回転のときの首のつかいかたや、腕の位置など、細部が美しい。
4人のバイラオーラ、3人のバイラオールたちのレベルの高さに脱帽。
一般の踊り手たちの技術のレベルというのはどんどんあがっている。

第3景は聖週間につきものの太鼓とコルネットなどのバンドの伴奏で
キリスト像のガウンをまとったルベンのソロ。
これもダンスシューズで、第1景と似た振りが繰り返される。

続く第4景はマヌエラ・バルガスへのオマージュ。
ルベンは白地に赤の水玉のバタ・デ・コーラで登場し薄明かりの中でミラブラスを踊る。
男性のバタ・デ・コーラはホアキン・コルテスやラファエラ・カラスコ舞踊団などでも前例があるが、髪に櫛をさし、というのは珍しい。その顔をみせないようにするためか照明は暗い。女性の格好をしていても、動きのあちこちにはやはり男性が顔をだし、そのへんのミスマッチが面白いといえないこともないが、中途半端な感じもまぬがれない。

第5景、イスラエル・ガルバン振り付けの「ファルサ・ファルーカ」は文句なく面白い。
「ファルーカがガリシア由来なんて嘘」という会話からはじまるこの小品は
ガイタ(バグパイプ)の伴奏でのファルーカ。
イスラエルらしい振り付けなのだが、イスラエルよりも重心が高く、
回転や跳躍などバレエ的テクニックを得意とするルベンだけに
イスラエルもそれをいかして振り付けたようだ。
バグパイプ奏者とのかけあいもユーモアたっぷりでとにかく楽しい。

第6景はフラメンコ組曲。
全員でのファンダンゴ、男3人と女1人のシギリージャ、女たちのグアヒーラと、
先のレッスン風景で練習していた曲とハレオ、タンゴの5曲。
ファンダンゴの赤いバタ・デ・コーラ、
グアヒーラの白いドレスにマントン、
ハレオのヒターノ風の衣装、と女性の衣装(フスト・サラオ)がすばらしい。
伝統的なかたちの衣装はやはり美しい。


最後は超大判のマントンでのルベンのソロ「エル・ブエロ」
これもバレエ+マントンという感じ。マントンのフレコ(房)が舞い、鳥のようだ。
(写真Luis Castilla. Bienal de Flamenco)


ひとつの作品としての統一感があまり感じられない。
おもいつくまま、やりたいことをやったせいだろうか。

客席はマティルデ・コラル、クリスティーナ・オヨスをはじめ、
ミラグロス・メンヒバル、ラファエル・エステベス、ナニ・パーニョス、
マリベル・ラモスら踊り手がめじろおし。
それだけ注目されているということなのだろう。
まだ30歳。これからの展開に期待したい。


なお同じ16日、ロペ・デ・ベガ劇場ではレブリハーノの「カサブランカ」

(写真Luis Castilla. Bienal de Flamenco)
アラメーダ劇場ではダビ・カルモナのリサイタルが開催されました
(写真Luis Castilla. Bienal de Flamenco)

2010年9月16日木曜日

開幕ガラ イストリア・デ・ビバ・ボス


(写真Luis Castilla. Bienal de Flamenco)
7000人の観客で満員のマエストランサ闘牛場。
4人のカンタオーラ、4人のカンタオール、4人の踊り手たち、
2人のパルメーロ、パーカッションにピアノ、
そしてアンダルシア青少年オーケストラ。
彼らの力を借りてミゲル・ポベーダは3時間歌いまくった。

リビアーナ、ナナ、マリアーナ、プレゴン、
ラウラ・ロサレンのアレグリアスをはさんで
カーニャ、ポロ、ソレア・アポラーと、
つながりのある曲が続き、
ペテネラ。
エステベス、パーニョ、ルスが踊るアルベニスのマラガをはさみ
マラゲーニャ、ハベーラ、ベルディアーレス、ロンデーニャ、タラント、
モライートらが伴奏のブレリア三昧からロマンセ風のレブリーハのブレリア、
ウトレーラ生まれバンビーノのルンバから
フェルナンダとベルナルダが歌ったコプラ(歌謡曲)のブレリアを
4人のカンタオーラたちが歌い継ぎ、
クラシックのレパートリーである、
コプラス・デ・クーロ・ドゥルセをオーケストラ伴奏で朗々と歌い上げたかと思うと、
机をたたいてファンダンゴ・デ・ウエルバを。
黒とグレーのコルドベス、鳥打ち帽などを身につけて
往年の名歌手たちを再現する。
黒のコルドベスでアントニオ・マイレーナ
灰色のコルドベスでフアニート・バルデラマ、
コルドベスを後光のようにかぶってミゲル・モリーナ
椅子に座ってバストンでアントニオ・チャコン、
サングラスと胸にさした赤い花でポリーナ・デ・バダホスというように。
これが秀逸。
最後はバジェーホで、そこからバジェーホの歌ったアルゼンチン・タンゴにいく。
オーケストラ伴奏でアウロラを歌い
アルベニスの「トリアーナ」をはさんで
ティティのタンゴ。
アントニオ・マイレーナとペペ・マルチェーナのソレア。
シギリージャはモライートの伴奏で。
ポベーダのヒット「アルフィレーレ・デ・コローレス」からカンティーニャス
そしてカマロンの「レジェンダ・デル・ティエンポ」をオーケストラと。
最後にはゲストでエスペランサ・フェルナンデスも登場しデュエット。
(写真Luis Castilla. Bienal de Flamenco)

最後はソレアをオーケストラ伴奏で。
そしてアンコールはピアノ伴奏でヒル・デ・ビアデマの詩を。


長過ぎたのはたしかだし、あちこち削り落とせばもっとよい作品となりうるだろう。
だが、フラメンコの歴史を振り返り、地図を俯瞰した公演。

ミゲルとラファエルのアフィシオンの結実。
その心意気をよしとしよう。

何を歌っても様になる。
ミゲル・ポベーダはまちがいなく、フラメンコの、スペインのスターである。